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札幌高等裁判所 昭和42年(う)121号 判決 1968年3月05日

被告人 及川静雄 外二名

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、被告人及川、同鳴海につき当該被告人及びその弁護人彦坂敏尚提出の各控訴趣意書、被告人伊藤につきその弁護人中島達敬提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これらを引用する。

第一被告人及川、同鳴海関係

一  右被告人らの控訴趣意及び弁護人彦坂敏尚の控訴趣意第一点(原判示第一事実に対する事実誤認及び法令適用の誤りの主張)について

所論は要するに右被告人らの本件ビラ貼り行為は労働組合法一条二項にいう正当な組合活動であるというのである。そこで原審及び当審で取調べたすべての証拠を総合して考察するに、右ビラ貼りは右被告人ら第一ハイヤー労働組合の組合員がその労働条件の改善を要求して争議行為を繰返すうち、会社側に組合役員の解雇降職、或は組合内部の批判勢力に対する援助からやがて結成された第二組合との協定締結等、同被告人ら組合員を刺戟するような行動があつて、会社との団体交渉が進展しないことに憤懣をいだいてなされたものであり、その態様たるや前記被告人ら約三〇名が原判示の如く職員執務中の会社事務室及び隣接の社長室に押入り、その壁はもとより窓ガラスから机、椅子、戸棚等の什器類、果ては壁にかけた油絵や写真にまでところかまわず洗車ブラシ等でノリを塗りつけ、「要求貫徹」「団交開け」等と赤インク等で大書した新聞紙四つ切りを使用したビラ約二〇〇枚を一面に貼りつけたものであつて、上部組合の指導者の中にもその行き過ぎを認めている者がある位であり、これらビラはその後水洗い程度では容易に剥離せず、又ノリやインクのあとがしみこんだりして右什器類等を著しく汚損しその効用を害したことが認められる。従つて以上ビラ貼り行為が第二組合の結成によつて-第一-組合員が激減し、会社側に対抗する力が弱化したための戦術としてなされ究極的には叙上争議目的貫徹のためにその一環として行われたものであり、又それまで会社側に組合員の不利益取扱いや組合の運営に対する介入等法律に違反し、或は団体交渉等に誠意を欠いたところがあつたなど所論の争議行為の経過を考慮しても、もはや社会通念上争議行為の適法な限界をこえ、到底その正当性を肯認することができないものといわねばならない。以上の他原判決には所論の誤りは、すべて存しない。論旨は理由がない。

二  弁護人彦坂敏尚の控訴趣意第二点(原判示第一事実に対する法令適用の誤りの主張)について

所論は本件ビラ貼りによつてその貼られたものを著しく汚損し効用を害したことはないから、右所為は暴力行為等処罰に関する法律一条の器物損壊にあたらないというのである。しかしその然らざることは既に述べたところから明らかであつて、論旨は採用することができない。

第二被告人伊藤関係

一  弁護人中島達敬の控訴趣意中原判示第二の一の事実に対する事実誤認及び法令適用の誤りの主張について

所論は要するに右被告人は佐々木幸一に対し何ら暴行傷害を加えたことはないというのである。しかし原判決挙示の関係各証拠によれば原判示第二の一の事実はすべて認めることができ、この事実からすると右被告人の所為が傷害罪に該当することは明らかである。証人佐々木幸一の原審公判廷及び公判準備期日における供述には別段の矛盾撞着なく、木下繁隆の検察官調書や神田嘉愛の診断書の記載とも部分的によく合致し、同診断書を含むこれら証拠の信憑性に疑問をいだかせるような点は何ら見出せないのであつて、被告人伊藤の原審公判廷での供述中右認定に抵触する部分は上記各証拠と対比してたやすく信用することができない。論旨は理由がない。

二  同控訴趣意中原判示第二の二の事実に対する事実誤認及び法令適用の誤りの主張について

所論は又右被告人は菅井克已に対し傷害は勿論暴行を加えたこともないというのである。しかし原判決挙示の関係各証拠を総合すると原判示第二の二の事実も前同様認めることができ、これが傷害罪にあたることは明白である。木下繁隆が同被告人とその相手方菅井を取違えて供述した等とは右木下の検察官調書の記載内容からしても到底肯認できず、これに符合する証人菅井克已、菅野伸和の原審証拠調期日又は公判廷での供述を排斥すべき資料も記録上存しない。そして右被告人が菅野の方へ移つたのは本件犯行のすぐ後のことであり、又右犯行の際飯村平は既に菅井の応援にかけつけようとしていた菅野の方へ注意を向けていたことが、上記各証拠及び前掲佐々木幸一の供述更に飯村平の当審公判廷及び原審公判準備期日における各供述から認められるのであつて、右佐々木や飯村の供述をもつて前認定を覆えすことはできず、被告人伊藤の原審公判廷での供述中以上認定に反する部分はにわかに採用することができない。この点の論旨も理由がない。

その他所論にかんがみ記録を精査しても原判決に事実誤認法令適用の誤り等の違法はない。

よつて刑事訴訟法三九六条、一八一条一項但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤勝雄 黒川正昭 柴田孝夫)

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